2010年7月31日土曜日

カリスマ・コンサルタントとゆかいな仲間たち<14>


●ひずみ その1

今から思うに、K先生やこの組織に対する忠誠心も強いだけに、それぞれメンバーの功名心も強かったのだろう。

その後、嫉妬やねたみも生まれ始めた。
ただこの段階では表面化していなかった。

それらを表面化させるきっかけとなったのが、メンバーのまとめ役となるはずだった私である。

夏の暑い日差しとまとわりつくような湿気を含んだ東京の午後、あるホテルの会議室。

その日はパートナー会議とあわせて、Y国立大学のH助教授を招いてのカウンセラー養成講座が行われていた。

1日目はロールプレイングを取り入れた質問力のトレーニング。

2日目は復習と解説、質疑応答だった。

特にこの質疑応答の時間はいつも熱を帯びる。
経営者の心理から組織の心理まで、家族の問題と仕事や社会生活の関連性、後継者の問題など幅広く、問題の原因分析と解決策を答えてくれるからだ。

この日は特にK氏が熱心だった。
電話コンサルティングに寄せられた経営者の悩みについて熱心に尋ねていた。



「えっ、うつ病はうつるんですか?」


「ははは、オヤジギャグです。
 しかしうつは一人発症すると他の人も発症することがあります。
 なぜならうつは関係性の病気だからです」


「関係性の病気ですか?」


「そうです。人間関係が大きく関与します。
 うつ病は家族の支援の仕方で大きく改善しますし、
 反対に職場の人間関係や環境が変わらないと
 次々とうつになる人が出てきます」


「つまり、うつ病の人を辞めさせても、
 またうつ病の人が出てくると言うことですね」


「そうです。ですから腐ったリンゴを取り除くように、
 その本人を辞めさせても何の解決にもなりません。
 職場にうつ病の人が出ればそれをサインと捉えて、
 その人のサポートを含め職場の環境改善に取り組む事が重要です。
 そうしないとその組織は発展しません。
 ほんとうはまず経営者トップが自ら変わらなければならないんです」


「そうだったんですね」


何か思い当たることがあったのかK氏はしきりと感心していた。
それから休憩時間後、急にK氏が言い出した。

「H先生、すばらしいアイデアがあるんですが、
 時間を頂いて発表してもいいですか」


「ええ、いいですよ。どうぞ」


「私たちの会員さんもそうですが、
 企業が成長すればするほど、
 経営者自身やその組織に色んなトラブルやひずみが出てきます。

 これからはますますH先生のような専門家や
 カウンセラーが求められるでしょう。

 そこで経営者向けの特別のメンタルケアが受けられる会員制度を作ります。
 その入会金の中に寄付金も含めるのです。
 その寄付金でH先生のカウンセラー養成や
 子供のためのボランティア活動を支援するんです。

 その会社作ってこのパートナーの共同事業として
 運営するというのはどうでしょう」


 「それはおもしろいですね」

 「ぜひやりましょう」


その場にいた全員が賛成をした。私一人を除いては。


「社長はSさんにやってもらったらどうでしょう」

「いいですねー」と皆が言った。

Sさんどうですか」とK氏。


長い沈黙。

そしてやっとの思いでこういった。


「わかりました。しかしちょっと考えさせて下さい」


「じゃあ詳細は次のパートナー会議で話し合いましょう」


この時私に何が起こっていたのか。

なぜこのような態度を取ったのか。

このK氏のアイデアを聞いたとき最初はあっけにとられた。

そしてそれが深い失望感に変わり、
社長をやってくださいと言われた瞬間には喜びも入り交じり、
気持ちが拮抗して固まってしまったのだ。

なぜならこれは私のアイデアだったのだ。

パートナーがお互いの事業計画がダブらないように
昨年末に提出した私の未来計画そのままだったからだ。


帰りの飛行機の中、私は深く沈んだ。

『尊敬するK先生がこんな事をやるなんて』

『いや、たまたま偶然だったのだ』そう考える自分もいた。

実は後からわかったのだが、K氏は人のアイデアをどこかで
自分のアイデアと思いこんでしまう癖があった。

この後も同じようなことが二度も起こった。

あまりにも多くの情報に触れすぎるのだろう。
自分のアイデアと人のアイデアを混同してしまうようである。

また、この事件から数ヶ月後にも私の恩師でもある
竹田陽一先生が新刊で自分のアイデアを盗作したと
K氏が騒いだこともあった。

そのアイデアは竹田先生が何年も前に著書で発表しており、
その証拠を突きつけられ何も言えなくなったのだが、
以前竹田先生の著書をどこかで読んでいて、
何かのきっかけで思い出し自分のアイデアと
思いこんでしまったと推測される。

『何にせよ社長をやらせてくれると言ったんだし、
 私の未来計画がこんなにもはやく実現するんだ』

『これは喜ぶべきだ』と自分に言い聞かせた。

次の日、K氏に電話をいれた。

「あのような態度をとってすみませんでした。
 私も同じ事を考えていたので、
 あまりにもびっくりして固まってしまったんです。
 ぜひ社長をやらせてください」

と結局私がお詫びをするという形でへりくだったのである。

「ただし、パートナー全員ではなく、
 誰と一緒にやるのか人選は私に任せてくれませんか」

「それは構いませんよ。
 取りあえず事業計画書の原案を作ってください。
 でき次第、登記を直ぐに行いますから」

とさすがに行動力のある人である。

<続く>


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